あの日、あの夜、プールサイドで



「真彩の恋人は俺にとっても大切な男です。大切な教え子なんです。俺はね?アイツだけは傷つけたくないんです。あいつを…不幸にしたくはないんですよ。」


傷つきやすくて、繊細な心を持ったキラ。可愛い可愛い、俺の教え子。


真彩を俺が奪ったなら、傷つくに決まってる。自暴自棄になって、訳のわかんない方向に自分を歪めてしまうのが目に見える。


教え子と言うよりは弟に近いアイツにそんな気持ちを味あわせたくはない。



太陽の光の中でキラキラした笑顔を振りまきながら走り回る子供達を見ながら、婦長さんにそう告げると




「偽善ですね。」


「…え??」


「真彩ちゃんもあなたも…それ以上にあなたの教え子だと言う真彩ちゃんの彼も…誰も幸せではありませんよ、今の状態では。」


厳しい顔をして、そうつぶやく。そしてハァと小さくため息を吐いたあと


「月原さん。
もし明日が人生最後の日だとしても、あなたは同じ行動をとりますか??」



真っ直ぐに俺を見据えて、婦長さんは俺に真摯に問いかけた。




【今日が人生最後の日だとしたら】




その一節は確かスティーブ・ジョブズのスピーチの中にある、有名な一節だったように思う。




もし明日が人生最後の日だったなら。もう自分に残された時間がないとわかっていたなら、俺はきっと真彩のそばに飛んでいくと思う。


一度でいいから。同情でも、なんでも構わないから一緒にいて欲しいと懇願したと思う。