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夏の星空の下。真彩と最後のデートを楽しんでから、あっという間に月日は過ぎて、気づけば冷たい風が吹きすさび、凍えるような寒さが襲う2月に月日は過ぎていた。


真彩とはその後連絡を取り合うこともなく、道端でばったりと出会うこともなく、ただ穏やかに日々が過ぎていた。


まるで夏の蜃気楼のように。あの穏やかで激しくて、忘れられない日々が幻だったかのように、穏やかな日常が俺の中に戻ってきていた。





朝、学校に行って
部活して
帰ってきて飯を作って風呂に入って、ただ眠る。






そんな何気ない日常が戻ってきてしばらくした頃


「こんにちは、月原さん。」


俺の携帯にオヤジが入院していた病院の婦長さんから電話がかかってきた。




どうもオヤジが入院してた頃の忘れ物が出てきたらしく、病院に取りに来て欲しい……。ってことだった。




「着払いで構わないんで、送ってもらえませんか??」




いちいち病院に行くのもめんどくさい。
それにさ??
あの場所には真彩がいる。


会ってしまったら…きっと気持ちが逆戻りしてしまう。



だから丁重にお断りしようと思ったんだけど


「まぁ、それでもいいんですけどね。
久しぶりに会いたいのよ、月原センセイに。一緒にお父さんをしのびながらお茶でも飲みましょう??」


「でも……」


「あら。私のお茶が飲めないって言うの??そーんなことないわよねぇ??
今度の日曜日、必ず来てくださいね。」


強引な婦長さんの誘いを断れず、優柔不断な俺は゛はい”と頷くことしかできず。




俺は週末に真彩の待つ、あの病院へと足を向けることになってしまったのだった。