あの日、あの夜、プールサイドで



真彩はフルフルと首を振ると


「違うんです。
もし私が普通のおうちの子だったら、おじさんとちゃんとお別れできたのに、って……。」


そう言って真彩は俺に向かい合う。俺の目をまっすぐ見つめると



「ごめんなさい、先生。
私が普通の子だったら……ちゃんとお葬式にも行けたのに。」


目をウルウルさせながら。涙をたたえた瞳を俺に見せながら、そんなことを言う真彩。そんな彼女を見せられたら、もうダメだった。



ーーあぁ!ダメだ!!



その瞬間、俺のタガは完全に外れてしまった。


気がついたら彼女の手を取り強引に自分に引き寄せると、小さな彼女の体を無理やりギュっと抱きしめてた。


真彩は戸惑って俺の腕の中でモゴモゴ動いていたけど、そんなのはもう、どうだって良かった。


「せ、先生??」


戸惑う彼女の体をギュっと抱きしめると


「普通って何?」

「え??」

「父親がいて、母親がいる。それが普通で、そうじゃない奴は普通じゃないのか??」


俺はそんな言葉を口にする。



「ちがうだろ、真彩。
何が普通で何が普通じゃないのか。そんなことはどうだっていいことだよ。」


「せ、先生……。」


「金がなくても、両親がいなくても、構わない。それが普通じゃないなんて……俺が絶対言わせない。」



彼女に尊敬の眼差しで見つめられるたび、そばにいてホッコリ気持ちを温かくされるたび、俺は君に癒されて、その度に俺は君に惹かれて行った。


普通じゃない?


上等じゃないか。
お父さんもお母さんも亡くなって、家族もいなくなった君だけど。


そんな境遇の中で強くて優しい君が形成されていったとしたなら、俺は君を誇りに思うよ。


好きだ、真彩。
君をもう離したくない。


普通だけど普通じゃない、誰よりも素敵な君を俺は全身全霊をかけて守りたい。


心の底からそう思う。