あの日、あの夜、プールサイドで



複雑な気持ちを抱えながら、彼女とゆっくり歩く帰り道。マンションに着いて親父の待つリビングに真彩を案内すると


「おじさん…。遅くなってごめんなさい。」


そう言って、真彩は位牌に向かって手を合わせた。


「オヤジは真彩がお気に入りだったから…来てくれて喜んでるよ。」


そう言って彼女の小さな肩に手を置く。


すると彼女は恥ずかしそうにうつむいて


「本当はお通夜から行きたかったんだけど、お香典の準備ができなかったの。……ごめんなさい。」


真っ赤な顔した真彩がポツリポツリと語り出す。



施設育ちの真彩。
優しい園長先生だというキラの義母に見守られているとはいえ、自由にできるお金はきっと少ない。


たった数千円。
それさえも手元になくて、だけど誰にも言えなくて、一人でどうしようもできない気持ちを抱えてたのか……。



昔の自分を思い出すようで。幼い彼女にこんなことを言わせた自分がいたたまれなくて


「ごめんな、真彩。」

「え??」

「そんなこと気にしなくても良かったのに。来てくれただけで俺も親父も満足してるのに……そんなセリフ、言わせてごめん。」


俺は彼女の肩に手を置きながら、オヤジの遺影をじっと見つめる。


遺影の中のオヤジはニコニコと笑いながら、俺たち二人を見つめている。