あの日、あの夜、プールサイドで



その後のことは正直よく覚えていない。

あっという間に葬儀屋が来て、お通夜から葬儀までの日程をさっさと事務的に決めてしまって、親父を家に連れて帰って体を清めてもらって、気がついたらお通夜が来ていた。そんな感じだった。




驚いたのはお通夜と葬儀に沢山の人が来てくれたことだった。


工場で働いていた元従業員に、その家族。友達はもちろんのこと、土木で働いていた頃に一緒に働いていたおっさん達。


沢山の人が親父のために来てくれて、涙をしてくれて。


そしてみんな俺にこう言ってくれたんだ。



「お父さんは素晴らしい人だった。」……と。



「優しくて強い人だった。」

「どんな時でも前向きで、いろんな苦労もあるだろうに、いつだって明るかった。」



親父を知る人は口々にそう言ってくれた。固く、小さくなった親父の顔に手を当てながら、みんなワンワン泣いてくれた。


それを見て、それを聞いて

『悪く無い人生だった』

そう言った親父の言葉が痛いほどに胸をえぐった。



幸せ…だったんだ。
親父はきっと幸せだった。



金もなくて、遊ぶ暇すらなくて、貧乏のどん底で、はたから見れば不幸を絵に書いたような人生だけど……親父は幸せだったんだな。



こんなに沢山の人に愛されて、慕われて、いつも親父の周りには笑顔があった。


親父。
オヤジは俺を誇りだ、と言ってくれたけどさ??


俺はあんたを誰よりも誇りに思うよ。



あんたの息子に生まれてよかった。優しくて強い、あんたの息子に生まれてよかった。



焼き場の煙突から白い煙になって天に還るオヤジを見ながら、俺は心底そう思った。