あの日、あの夜、プールサイドで



人って不思議だ。

ショックを受けすぎると悲しむどころか、怒るコトも泣くコトもできなくなるんだな。



チャリを降りてキコキコと音のする自転車を歩きながら押していると


「コ、コウちゃん…!!!」


目を真ん丸に開けて心の底から怯えた表情を見せた真彩とバッチリ目が合う。




その瞳を怒るでもなく、悲しむでもなく、ただ冷静に見つめていると、車の運転席側のドアがバンっと開いてジーンズにダウンジャケットを羽織った月原がゆっくりと降りてきた。




5メートルほど離れたまんま、俺と真彩、そして月原が向かい合う。




「どういうこと…??って…聞くほうがヤボだよね。
いつから俺のこと騙してたの??」


自分でも驚くぐらいの冷たい声。
昨日ジュンに言い放った、あの悪魔な自分が顔を出す。


表情一つ変えずにそう真彩に尋ねると


「ち、ちがうの。
先生は相談に乗ってくれてただけで…。」


泣きそうな顔して真彩はフルフルと顔を振る。



「へーぇ。真彩はガッコまでサボって月原に相談に乗ってもらってたワケ??」


「……っ!!」


「相談に乗ってくれたからキスを許したの??」


「そ、そんなんじゃ……。」


「よくやるよねー。
昨日俺に“SEXしろ”ってせがんだ次の日に違うオトコと浮気って…欲求不満にもホドがあるんじゃないのー??」



酷いコトを言っているのは100も承知。
だけど、傷ついて困って泣いてる真彩を見て“ざまあみろ”と思った。


苦しめばいい。


真彩、コレは俺を裏切った罪の代償だよ。
ギタンギタンに傷つけてやる。


“いい人だった”だなんて思われたら……腹が立つ。