夕暮れはいつしか夕闇に変わっていく。
紺色に染まりくる空を感じながら、必死に自転車をこいでいると愛児園の赤い屋根が見えてきた。


――よし!!あともうちょっと…!!


そう思ってペダルを漕ぐ足に力を入れると、愛児園の前に一台の白い車がハザードを点けたまんま止まっているのが目に留まる。




あれ…??



どこか見覚えのある、その車。
嫌な予感が背筋からゾクゾク駆け上がって、否定してもしきれないほどの予感が核心に変わっていく。



――違う!!違う!!違う!!



そう自分に言い聞かせて頭をブンブンと振っていると、車からは一人の女の子が制服のまんまヒョイッと出てきて、そのまま運転手席の方にタタッと走り寄っていく。


女の子は何かお礼を言っているのか、運転席に座っている男にぺコンと小さく会釈する。



それが…真彩だと気付くまでに数十秒。



「…あっ…。」



車の窓から腕をニュッと伸ばして、真彩をグッと引き寄せて。盗むように、かすめ取る様にキスをしたのは、他の誰でもない。



キラはキラキラのダイヤモンドだ、と言ってくれた……月原だった。




初めは驚いたように目を見開いていた真彩だったのに。悲しそうに、でも月原のキスを受け止めてゆっくりまぶたを閉じた時



『あの二人、ただの関係じゃないぜ?』



そう言ったジュンの言葉が真実だったのだと初めて気付く。




真彩と月原のキスはまるで何かの映画のように美しくて、でも切なくて。




どこか悲しさを漂わせる二人のキスを目の当たりにした時。



俺の大切なモノ
かろうじて守っていた最後のカケラがガラガラと音を立てて崩れていくのを感じていた。