皆が目を反らし瞳を閉じる。
それは悲劇の瞬間を見ない為。
悲惨な姿を見ない為。
「…ひっ……」
そんな彼等が耳にしたのは貴族の罵倒する声では無く、何かに怯える声だった。
何が起きたのか目を向けると、何かを拒み前へ進まない二頭の馬と、倒れ崩れた馬車の残害。
そしてその前方には、少女を護るようにして覆い被さる1人の女性の姿。
「……」
金の髪を靡かせ立ち上がった彼女、セイラを目にした貴族達は悲鳴をあげ、馬車も荷物も全て置いたまま血相を変えて逃げて行く。
住民達は歓声をあげる事も無く、セイラと目が合わないよう視線を泳がせ関わろうとはしなかった。

