人生と言うものは難しい 如何に努力をしても手に入る物と入らない物があるし 才能の有無や産まれ持った顔などでだいたいの線路は決まってしまうからだ もしこの理論に反論できる物が居るならば そいつはきっと才能を生まれつき持っている人間だろう 勿論そいつが悪い訳ではないのだ ここまで来るともう神を恨むしか無くなって来る 天は2物を与えずというが 世の中には2物 いや 3物以上の才能やスキルを持っている人間が居るし 結局人間という動物はこのジレンマから抜け出せないのである

日本の夏は暑いのにも関わらず この神野高校はクーラーなどの冷房装置を設置していない 生徒達は夏になるとしきりに下敷きで人口的に風を出したり シャツのボタンを多めに外すなどし 熱気を外に出しながら一夏を過ごすのが ほぼ恒例になっている ここ美術室も見事に暑さ対策の餌食になってしまったようだ すべての窓は開けられ 乾いた風が入ってくるのを渚悠は感じた 事の始まりは担任教師にもうすぐ始まる恒例の行事 神野体育祭の準備のためにクーラーのよく聞いた職員室にて運悪く頼み事をされてしまい わざわざ美術室まで重い画材を運ぶ羽目になってしまったのである 勿論最初は他の人間にやらせればいいと断ろうと思ったが 体育祭の準備と夏特有の暑さのせいで 教師達は嫌という程ピリピリしているし煩いしで 結局折れたのは渚だった
「画材 ここに置いとくぞ」
教師達が煩い というのも理由の1つだが もう1つ 渚が折れた理由には決定的な物があった
「そうですか どうもありがとうございます」
十分すぎる程のお辞儀を長く延々にしたあと 霜月は静かに笑った 単刀直入に言うと渚は霜月が女性として好きなのだ 濡れた黒髪に白い肌 霜月という少女は全ての男性が憧れる集合体を具現化したような少女だった
「渚さんは先生に言われて来たのですか?」
「まあな お前の絵をよく褒めていらっしゃったぞ」
「そんな 私はただ絵が好きなだけですから」
謙虚で優しく誠実で儚い 霜月を字で表すのは難しいが 何処か負のある 綺麗な少女だ