今年の春。島から出て、私は県で2番目の高校に入った。ずっと続けていたバドミントンの部活に入りたくて、バド部がある学校に行った。だから、受かって本当に嬉しかったんだ。
弟がくれたフェルトのお守りを鞄につけたまま(クマの形)入学式に行くと、隣に巨体があった。自分で言いたくはないけれど、私はちびな方だ。ローファーで、やっと151センチ。
それなのに隣の男の子は、低く見積もって175はある。すらっとしていそうで、全身にしっかり筋肉がついている。で、目つきが鋭い・・・怖い。怖い。こわっ。
諦めた私は下を向いて、靴が脱げないように集中していた。
「・・・よぉ。」
無言。・・・?
はっと隣を見ると、男の子が私のほうを向いていた。
「え、私?」
変な声が出た。あぁ~。急に声なんてかけないで!
「うん。俺、岡木だから。」
「おかき?」
「おかぎ!やめろ、おばあちゃんみてーな突っ込み!」
笑った時に、八重歯が見えた。よかった、怖い人ではないみたい。
「私、夏生だよ。」
「下の名前は?」
「結。なつおゆい、です。」
「ふぅん。これからお隣よろしくな!」
私は多分、笑った。安心したから。
こんなにすぐ、誰かと話ができるなんて思っていなかったから。
周りの皆は、私たちの仲の良さそうな会話をしばらく見ていて、驚いていた。
そして、それから1人、また1人と、お隣同士の会話がはじまった。
きっかけを作ったのは、私たちだった。
