一気に早足になる。

その早足になる後ろから聞こえる彼の足音。


こんな状況になるくらいなら、最初から焦らなかったらよかったのかも。


あんな風に焦ってしまったから――

もう後悔しても事が済んでしまった後だから、遅いんだろうけど。


「――結衣! 待てよ」


そう言って、いきなり私の腕を掴むんだ。

びっくりする程凄い力。


「痛っ! 何?!」


振り向く。
その瞬間、唇が触れた。


これは――き……



――キス?!



ジタバタ。


唇が離れた瞬間、思わず力が抜けて、地べたにしゃがみこむ。


「――アンタ! 何!? 何よ!!」



初めての……初めてのキスだったのに。


こんなキス、嫌だ。


嫌だよ。


好きな人でも何でも無い奴に簡単に奪われてしまうなんて最悪だ。

私はきっと目の前にいる奴を見つめた。



「聞いて欲しいんだ! 俺の話!!」


「結構! もう、近寄らないで!!」


「嫌」


真剣に語る彼の瞳は、あまりにも真っ直ぐすぎて怯む。


「俺は結衣が知りたい!!
 あの日の涙の理由が、知りたいんだ!!」