「誰がお前何か好きになんだよ。さっさと帰ってろ!」
いつもより不機嫌なのか先輩の言葉はきつい。
「そ〜んなこというなよ〜。幸ちゃんが困ってんだろー?」
優希先輩が私をやんわりとカバーしてくれる。
私はいつものように笑って先輩の肩をたたくことができなかった。
「…じゃ、じゃぁ今日のところは私帰りますね。」
珍しくおとなしい私をみてみんなが驚いているのがわかる。けれど私はうつむいたまま顔をあげることができなかった。
「えっ本当に帰っちゃうの?」
「気をつけて帰ってね〜?」
耆榑先輩や佐藤が優しい言葉をかけてくれる。
「ありがとーございます!ではまた!
顔をあげずにペコリとおじぎする。
「……。」
先輩は何も言わない。
「…んなら俺送ってくわ。」
不意に秋兎先輩が寄りかかっていたガードレールから立ち上がり私の横にくる。
「女のこ一人じゃあぶないでしょ?」
小さく呟いて私の顔をのぞきこむ。
「…秋兎?」」
先輩がたの声が聞こえた。
私はもう一度おじぎをしてそのばに背をむけた。
顔を……あげられない。
…いつのまにか先を一歩先を秋兎先輩が歩いていた。
「「……。」」
「……っつ。…っひく。」
夜の道に誰かの啜り泣く声がする。
その声が…自分の声だなんて認めたくない。
「…。」
秋兎先輩は無言で私の歩くスピードに合わせてくれた。
隣を歩く秋兎先輩がいきなりぐいと私の手を引く。
びくっ
「秋兎…先輩?」
「……聖あいつありえない。」
「先輩は…悪くないんです。」
涙と嗚咽でかすれる自分の声を聞いて、余計に自分がこどもなのだと実感する。
「…もう、いいんです。私…っ馬鹿みたい。」
秋兎先輩が泣きじゃくる私をフワリと優しく抱きしめてくれた。
秋兎先輩は私の肩に額をおしあて、耳元で何か呟く。されるがままだった私は秋兎先輩の背に腕を回し胸に顔を埋めた。抱きしめる腕に力がこもる。
「体 大丈夫か。」
秋兎先輩の言葉に私の体がビクンと震えた。
「…ごめん。思い出させた。」
「……っつ秋兎…せ…んぱい。」
秋兎が唯から少しだけ体をはなす。
ふと みつめ合った二人はそのまま唇を重ねる。
「…ふっ、、はぁ んん…」
段々と激しくなっていくキスに唯は戸惑いながらもすがらずにはいられなかった。
クチュ クチュと舌が絡み合い卑猥な音をたてる。
「…っつは……ぁあ あき…と先輩…。」
やっと離れた唇から必死に声をだす。
またそっと触れた唇から優しさが伝わってきて唯はどうしようもなく泣けた。
「……唯 いいか。」
静かに呟かれた声は誰もいないアスファルトの道で小さく響いた気がした。
「優しくする。お前の中にあいつを残しておきたくない。」
ぎゅっと力のこもった腕に抱きしめられ、唯はこくんとうなずいた。
唯が頷くのを確認して、秋兎の手が唯の着ていたキャミソールをそっと押し上げなれた手つきでブラのホックをパチンと外した。
こんなの駄目だってわかってる。
秋兎先輩を好きな訳じゃない。
でも、でも
今一人でいたら…
温もりを感じられなかったら
私は壊れてしまう気がする。
ごめんなさい秋兎先輩。
私はあなたを利用します。
私を抱き締める温もり
私を見つめる熱っぽい瞳
壊れ物でも扱うかのように
優しく降れてくる秋兎先輩
この手が…
私を求めてくる瞳が…
男が…
先輩だったらいいのになんて
秋兎先輩にも私にも
残酷すぎるこの思いを、どうかわたしのなかから消して下さい。
幸の目から一筋の涙がすべり落ちた。