ゆっくりと廊下を歩く。
予想通りで、予想とは違った。
この廊下を歩いているのは予想通り。
生きて歩いているのは予想とは違った。
こんな、こんなはずではなかったのに。
ちらりと隣を窺えば殺した男の上司。
強面の男。
ゆっくりと、歩いていた。

言葉もなく開かれた扉の向こうには仏頂面の女。
恐ろしいほどの美貌は醜く歪むことはない。
恐ろしさを際立たせるのみだ。

上質なドレスを着た女は仏頂面のまま私の前に立ち、仏頂面のまま私の頬を平手で打った。
「何てことをしたの」
美しい唇からこぼれる言葉。
流れるままに涙は床へ。
呆然と立ち尽くす私。
「何てことをしたの」
二度目の言葉。
私は何も言わない。
言えない。
「なんで、」
「おい」
なおも続けられる言葉を遮ったのは男。
男は静かに首を振った。
私を代弁するように。
「わかるはずがないじゃない」
私は口を開いた。
「私にもわからないのに。あなたに、わかるはずがないじゃない」
「なんで?私はなんで、あんなことをしたのかしら」
「私には、わからない」
「なんで、私は、父を殺したのかしら」