「名前、教えてよ」


どこか、ぎこちない雰囲気もあったけれど
きっとあの湿った雨の匂いや、空気が、その雰囲気を緩和してくれていた。


「樹空。ジュア っていう。変な名前でしょう?」

「樹空。いいじゃん、樹空?」

世間で言う、ドキュンネームな気がして大嫌いな自分の名前だったけど
彼に呼ばれるときだけは、自分の名前のことをとっても好きになることができたと思う。


「なんか恥ずかしいから、名前呼ばないで」


恥ずかしいのはほんとうのこと。
呼ばないで なんて、嘘。

呼んで欲しくて、たまらなくて、なんでだろう?
分からないけど、この時からきっと私は彼に惹かれていた。