「パパ、沙妃ちゃんが帰ってきたわよ」


ママに背中を押されて、おそるおそるリビングへ踏みこむと。




そこには、ソファに座って新聞を読んでいるパパがいた。




久しぶりに見る、その姿。


少し増えた白髪に、うまく声が出ない。


「……ただいま」


ようやくしぼり出した挨拶に、パパはただうなずいた。




『おかえり』




当たり前だった返事が、今はない。


私は何も失わないまま、こうして生きているというのに。




今日のことが、津波のように押し寄せる。


どうして、あんなにはしゃげたのだろう。


どうして、あんなに食べることができたのだろう。




『帰れば』




そう、私には資格がない。


満腹になっていいわけがなかったんだ。




こんなにも、罪深いんだから。




「あっ、沙妃ちゃん、どうしたの?」




耐えられなくて部屋に駆けこむと、私はベッドに突っ伏して泣いた。


自己嫌悪とよみがえる記憶に押しつぶされながら、一晩中、ひたすら泣き続けた。