ひとつ、屋根の下で



スル、と私の唇を塞いでいた凌の指が下に滑る。


だけど、自由を取り戻したはずの私の唇は、何も言葉を紡いではくれなかった。


……否。


凌の強い視線が、私に声を出すことを許してくれなかったんだ。



互いの額が触れ合いそうな距離まで凌が迫ってくる。



そんな距離でも、私は顔を背けることができない。



そして、その距離で、凌は微かに唇を開いて。



「……沙波、可愛い」



甘い、甘い声で、そう言った。


「っ!」



瞬間、ドクンと大きく心臓が揺れた。


まるでとろとろと滴るハチミツみたいに、私の心に流れ落ち、纏わりついて、そして有無も言わせず沁み込んでくる。


そして沁み込んできた甘い声は、言葉は、じわっと音を立てて私の心に溶けていくんだ。