ひとつ、屋根の下で



涙に俯いて、凌の名前を呼んだ、瞬間。


「何してんだよ!」


力強い怒声と共に、私の手首がグイッと誰かに掴まれて、身体が後ろに傾いた。


黒い人がチッと舌打ちをした音が聞こえた。


ビクッと身体が竦み、顔を上げると見えたのは、険しい顔をした、瀬野くんだった。



「瀬野、くん」


「ったく……、心配で追って来てみればやっぱりこうなってるし……。

……あんた、ちょっとここで待ってろ」


瀬野くんが私の手を掴むと同時に逃げていった黒い人を追いかけようと、瀬野くんは前を見ていた。



「やだ、やだ。行かないで」


「ダメ。無理。これ以上怖い思いするの嫌でしょ。今なら追いつける」



駆け出そうとした瀬野くんの手を、私はギュッと握った。


しかし、瀬野くんは荒っぽく私の手を振りほどく。



「ダメ。……俺、これ以上は我慢できない」


「瀬野く」


「あんたも、あの人にこんなことさせるの、やめさせてやって」



そう言うと、瀬野くんは黒い人の後を追いかけて駆け出していった。


私を見た、瀬野くんの険しい顔は。


同時に、泣きそうな顔にも見えた。