ひとつ、屋根の下で


そんな視線に、先輩は困ったように笑った。



「あのさ、とりあえず場所変えない?」



あ、そっか、ここ道端だった。


細い路地にちょうど入る位置だったから人通りもほとんどなくて、そのせいで自分たちの世界に入り込んでいたことにハッとする。


「ていうか、あの怪しい男の話から、いつの間にかふたりの話に変わってない?まぁいいけどさー」


千依の手を引っ張って立ち上がらせながら、先輩は呑気にそう言った。


キッと、千依が先輩を睨む。



「何言ってんの!?ふたりの話、じゃないでしょっ!!雅季がいちばん悪いんだからね!?わかってんの!?」


「えっ!?俺!?」


心底驚いたような顔をする先輩。

……うん。


大丈夫。


先輩を前にしてももう、心が痛くなることも、会っていたときのように胸が高鳴ることもない。


……全然痛くないって言えば嘘になるけど、でも、無視できるくらい微かなものだ。


そのうち消えるだろうと確信できるくらい、本当に微かな傷の残滓(ざんし)。