ひとつ、屋根の下で



凌は、眉根を寄せて何か言いたげな表情をしていたけれど、だけどここでこれ以上会話することを諦めたのか、グイッと私の手を引っ張って歩き出す。



「凌」


「帰る」



有無を言わせぬ口調、とはこのことだろうと思った。


何も言えない。


ただ、掌から伝わる温かさがあれば充分だった。


たとえ、優しくしてくれる理由が仕事のため、だけでもいい。


心が痛んでも、そう思ってしまうくらいに私にとっては魅力的すぎる優しさ。



凌は私を引っ張ったまま人混みを抜け、改札を通り抜けて、残業帰りのサラリーマンやOLさんたちでいっぱいの満員電車に身体を滑り込ませた。


やがて滑るように走りだした電車。



ガタン、ガタンという足下からの振動に身体を預けて揺られながら、キュッとまるで抱きしめられるような格好で密着してしまった凌の体温を感じていた。