「わざわざ、ごめんね」
私の言葉に、瀬野くんが何か返そうとしたのが口の動きで分かったけれど、瀬野くんはそれを声に出すことはせず、黙ったまま私の手を離した。
「迎え、来たんじゃねーの」
「え?」
振り返ると、人混みを縫うようにしてこちらに来る凌が見えた。
「沙波」
凌が私の名前を呼ぶ声が耳に届く。
瞬間、身体が勝手に動いていた。
「凌……」
くるりと身体を凌の方に向けて、手を伸ばす。
その手に、凌は一瞬驚いたような顔をしたけれど、私の掌を余さず熱に包みこもうとでもするように、向けられた掌に、指を絡めてキュッと握ってくれた。
じんわりと、慣れた熱が掌から伝わってきて。
その安心感に、緊張の糸が切れてしまったかのようにぽろぽろと大粒の涙が出てきた。


