星空の下で

やべーな。昨日の酒が残ってんぞ。慶太郎よりは酒に強いはずなんだけど。酒乱の息子だからな。ママと飲むと効くわ。二十歳過ぎたらもう老化へと向かう一方か。もう今年は22歳だしもう俺らも年だな。結城さん!あなたと出逢った時にあなたは33歳って言ってましたよね。俺達は30代を迎えますかね?自業自得の10代を過ごしてきましたからわかりませんよ。のたれ死ぬ気でいましたし慶太郎はドラッグにも手を出していた頃もあるわけで酒は中学から浴びる程飲んでるし今も俺が店を回しているとは言え俺だってまだホストもやっていますからね。俺達の完全引退は25歳ぐらいがいちお目処です。後3年飲める体であればの話しっすけど。俺は酒乱じゃないだけまだマシかと思います。カラむ事はないですし。まあ酒乱であればホストで成り立ってないですね。俺達がホストをやらずに済む人材を育成しなければならないのになかなか難しいっすよ。翔太の事があって以来やっぱりこういう世界に身を置く人間はそれなりのものを抱えて飛び込んで来るんだとは心得ているはずなんすけど人の心の中までは見えないっすから神経使います。あーあと店の備品は何がいるんだったかわすれたじゃねーか。トイレットペーパーと消臭剤まだなんかあったはずだった。あのガキ万引き少年じゃねーか?まるで昔の俺だな。俺もこんなふうにあなたに見られていたんですか?でも俺はプロだったはずなんであんなに挙動不審ではなかったと思うんすけど。

『おい!ポケットに入れたものを俺の方を向いて俺のカゴに入れろ』

『え?し、しらない!』

『大丈夫だよ。お前みたいなチビは俺が前に立ってたらスッポリ隠れるからよ。お前はすぐに見つかるぞ。ここには私服の万引き保安官がいる。ここで出して店を出なければお前は1発でアウトだぞ。捕まったら親が呼ばれるんだ。いいのか?早くしろ』

『で、でも警察に言うんでしょ?』

『言わねーよ。俺が買ってやる。早くしろ怪しまれるだろ!お前初心者か?ガムだけ?あるものは全部出せよ!店出たら終わりなんだぞ!』

『まだこれだけだよ!今からだったもん』

『あっそう。他に何をパクろうと思ってたんだよ?』

『消しゴム』

『じゃあ持ってこいよ』

『うん』

『あそこに茶色い服着たおばさんがいるだろ。普通に買い物しているように。でもあのおばさんはお前みたいな万引きを捕まえるのが仕事だ』

『だいたいいるんだ。普通の買い物客に紛れこんでな。その見分けがつかねー素人がやってんじゃねーよ。おっさんだっているし若いねーちゃんが警備やってる事もある。ほら!ちゃんと金を払ったんだから堂々と持って帰れ。次やるときは捕まる覚悟でやるならやれよ』

『あ、ありがとう!お兄ちゃんはなんでわかるの?』

『俺もやってた頃があるからだ。お前みたいにただのお遊びじゃねーけどな。本気でその日の食料を得る為だ。遊び半分でやるんじゃねーよ。お前は食う事に困ってねーんだろ?』

『困ってない。施設だから』

『あっそう。じゃあいいじゃねーか。消しゴムぐらい言えば用意してくれるんだろ?』

『欲しいものじゃないし選べない』

『最低限食えて必要なものも貰えるなら危険を犯す事はねーと思うけどな。お前名前は?』

『壮太郎!結城壮太郎』

『はあ?結城壮太郎か。どんなご縁だよ。お前の施設はどこ?親は?』

『お父さんは知らない!僕が生まれる前に死んだって言ってた。お母さんは1年生の時死んじゃったから僕に親なんていないよ!』

『お前いくつ?』

『7歳だよ!春休みが終わったらもう2年生になる!』

『そうか。壮太郎!万引きはもうやめろ。俺の名刺だ。携帯の番号が書いてあるだろ。どうしても欲しいものがあるんだったら電話してこい。施設に電話ぐらいあるだろ』

『名前なんて読むの?』

『大輔だ。渡部大輔』

『うん。わかった』

結城さん!これは神の計らいですか?まさかですよね?でも同じ結城なら何かのご縁があるって事でしょ?何を意味するんすか?あなたの子じゃないですよね?あなたは慶太郎と暮らしていたんでしょ?俺バカだからわかんないっすよ。そもそも慶太郎はなんで中2の時俺らの中学に転校してきたんすか?中1の時はあなたと暮らしていたんでしょ?慶太郎の尻叩いて躾てたんすよね?慶太郎は尻叩かれて泣いてたって言ってましたよ。あなたは慶太郎を捨てたんすか?違いますよね?あなたはそんな人じゃない。慶太郎が出て行ったんすか?なんで坊っちゃんの慶太郎が荒れたんですか?わかりませんよ。7歳の結城壮太郎が万が一あなたの子ならあなたが亡くなって今年8年目でしょ。壮太郎が今年2年生で8歳になる。13歳の慶太郎とあなたにいったい何があったんすか!わかりません。ただの偶然ですよね?

『お疲れ!大輔!給料明細出来ましたんで持ってきましたよ。皆さんに配ってくださいね。つうかマジで事務員雇おうぜ。俺も大輔も仕事減らねーよ!』

『おう。お疲れ!慶太郎。女はめんどくせーっつってんだろ。お前飯食った?』

『いやまだっすよ。もう飯準備してくれてる女もいませんからね。それより荷物が片付けられねーんだよ。誰か貸してくんない?』

『飯行こうぜ!慶太郎!』

『はあ?こんな早朝から何食うんすか。まあ俺らにとっては晩飯みたいなもんすけど。こんな時間じゃ美味い物なんか食わせられませんよ。ファミレスぐらいじゃないっすか』

『なんだっていいんだよ!行くぞ!』

『マジっすか!俺もう帰ってちょっとでも寝ないとヤバイんすけどって聞いてます?』

『慶太郎!お前は中2の時に転校してきたよな?結城さんとは中1の時一緒に暮らしてたんだよな?お前はなんで転校してきたんだよ?実家より結城さんの方が居心地良かったんじゃねーのかよ?尻叩かれるから逃げ出してきたのか?』

『なんだよ!大輔!お前もなんなの?俺の過去に触れる必要ねーだろ。そんなことの為にファミレスに来たわけ?ふざけんなよ。もうねむてーっつうの。俺が逃げ出しましたよ。それでいいっすか?』

『お前捨てられたのか?』

『はあ?バカか!大輔!壮ちゃんはそんな奴じゃねーよ!俺を愛してくれていたのに俺が逃げ出したんだ。はぁー。俺が13歳の夏にパクられた。学校も退学になった。壮ちゃんにこれ以上迷惑かけたくなかったから俺が実家に戻る事を決めた。壮ちゃんに合わせる顔がなかったから逃げ出したんだよ。これでいいっすか?』

『そうか。それなら良かった。捨てられたんじゃなくビビって逃げ出したのはお前なんだな!尻叩かれて泣くぐらいだからそりゃビビるわな』

『うるせーよ!お前だって絶対泣くよ!俺は2週間ぐらい跡が残ってたんだからな。座るのだっていてーんだぞ。壮ちゃんは優しそうに見えるけど怒らせたらマジ鬼だった』

『お前がそれだけの事をしたんだろ』

『そうですね。俺は泣かされて当然ですよ』

結城さん!慶太郎がパクられた理由は聞きませんでしたけど退学になったのであれば中1の二学期からでも俺らの中学に来てもおかしくないっすよね。保護観察処分ではなかったと言う事でしょ。中2でパクられた時鑑別所行きでした。あなたと慶太郎は離れて暮らさなければならない程慶太郎の処分は重く実家に戻れたのも中2からだったわけですね?慶太郎が居なくなってから出来た子が壮太郎ではないんですか?あなたは知らされていなかった。死ぬ前にわかったんですか?俺の予想は合っていますか?もしあなたの息子なら血の繋がりはないけど慶太郎の弟ですよね。慶太郎に知らせるべきでしょうか?俺にどうしろと言うんすか。神の計らいの意味がわかりませんよ。