なんてことだ。まさか本物だなんて。そんなこと有り得ない。


「チッ。自分から言っておいて信じられないのか。来い。特別に触らせてやる」

「え、あの」


‥‥‥やべえよ。やっぱ来るんじゃなかった。変な人だよ、これ。確実に。

今すぐ逃げてしまおうかとも考えたが、背を向けたら最後、喰われてしまいそうだった。


「ボケボケすんな。はやく来い」

「は、はい!」


諦めた俺は社長椅子に腰かけた少年に近づき、その耳を凝視した。

リアルだ。ごくりと生唾をのむ。

本物なのか?いやそんなはずがない。しかし、そこには血が通っているようで、触ってみるともう本物にしか見えなくなってしまった。

ああ、今日の俺はどうかしている。占い師の老婆のことといい、もしかして夢でも見ているのではないか。


「フン。警戒心の強い人間だな。まあいい。オマエは今日からボクの部下だ」


ギロリと鋭い眼光に睨まれ、身動きがとれなくなる。どういうことだ。

『勝手なこと言うんじゃねえ!』そう言おうと口を開いた、はずなのに、


「はい。よろしくおねがいします」


俺の口は勝手にすらすらと、思ってもない台詞を吐き出した。さらに、


「オマエ名は?」

「中原圭一です」


名前まですらすらと明かしてしまった。どういうことなんだ、これは。どうなってるんだ!

契約書と思わしきモノに、勝手にサインする自分の指を睨みながら、俺は意識を手放した。