「ようこそ街屋探偵事務所へ。ボクは所長の街屋だ。オマエ名は?」

「え、いや、あの」


引きずり込まれたのは外観からは想像もつかないような広さの空間だった。一流ホテルのスイートルームのような空間に驚きを隠せない。

いや、それよりも。


「おい、人が名乗っているのに無視か。ヒトの子」


目の前でタバコをふかすこの少年は、はたして人であるのだろうか。

背は160センチくらいだろうか。少しウェーブのかかった黒髪の端正な顔立ちの少年だ。しかし、ひどく凶悪な顔付きをしている。

その鋭い目で睨まれたら、蛇に睨まれた蛙のように身動きがとれなくなりそうだ。塩をかけられたナメクジのように縮みあがってしまうかもしれない。その整った唇が開けば、ギラリと光る牙が見えてもおかしくはなかった。

そんな凶悪なオーラを垂れ流す少年は、不気味なほど不似合いな、"アノ草食動物"の耳をつけていた。

か弱く淋しがり屋。
数々の日本昔話にも登場し、月で餅をついていたりする、アノ‥‥‥。