朝。ベッドから身体を起こせば、ローテーブルの上に置かれた小瓶が目に入った。

ゆるりと手を伸ばし、小瓶を朝陽にかざす。透明の液体は、キラキラと光を反射し、瓶を揺らせば静かに波打った。

昨日と変わらず、水のような液体だ。なんの変哲もない。

だが、怪しい。
渡してきた人物の得体が知れない。

飲んだフリをして捨てるか。瓶のキャップを開き、洗面所へ向かおうとしたとき、電話が鳴った。

悪寒。

通話ボタンを押してもいないのに、通話が始まった。


「ごきげんよう、中原圭一クン」

「……やっぱ、街屋さんか」

「まさしく。オマエ、寝ぼけてるのかもしれんが、その液体、捨てたら高いぞ。ボクは"飲む"という条件付きで渡したのだからな」

「高いって……」

「まあ、オマエには一生かかっても払えまい。平たく言えば、死ぬまで我が事務所で雑用確定だな。それが御望みならば捨てればいいが。よく考えることだ」


邪悪な低音が、部屋に響く。ああ、なんだってんだ。


「身体に害はないんですよね?」

「ないとは言えんが、あるとも言えない。なにせオマエの為に調合した試作品だからな」

「……わかりました。飲みますよ」

「賢い判断だ。ではまた後ほど。寝癖が酷いようだが、間違っても寝癖治しなんかに使うなよ」


通話が切れた。

隠しカメラでもあるのではないか。俺は部屋を見渡し、カメラを探す。

しかし見当たらない。

探すことを諦めたと同時にメール着信。

"カメラなどない。馬鹿なことをやらずに、早く飲んで、学校へ行け"


「やっぱ、どっかにカメラあんだろ!くそっ!」


半ばヤケクソに、小瓶の液体を飲み干し、俺は家を飛び出したのだった。