午後3時になる5分前。俺、中原圭一は昼でも薄暗い旧駅ビルの5階に立っていた。

目の前にはグレーの扉。表札サイズの看板には、"街屋探偵事務所"と書かれている。


今更ながら、なぜ来てしまったのだろうか。正直言って、こんなところに来たら、俺の悩みは増えてしまいそうだ。

やっぱり引き返そう。インターホンへと伸ばしかけた左手を引っ込めた。はやく帰ろう。すぐ帰ろう。きびすを返し、立ち去ろうとしたときだった。


「時間とおりだな。はやく入れ」


扉が開くと同時に、ニュッと伸びてきた手に捕まれる。力強いな。ぐいと引っ張られ部屋に引きずり込まれた。あぁ、なんだか昨日もこんな‥‥。