そうだ。確かあの日はいつも通る道が工事中で‥‥‥。

裏道に入ったら占い師の老婆に会ったんだ。


「名刺、もらったよな‥‥‥」


ズボンのポケットの中を探ると、セピア色の、元は白色であったであろう古びた名刺が出てきた。


"街屋探偵事務所"


そうだ!思い出した。
全部思い出した。いや、待て。夢じゃないのか?

何もかもが非現実的過ぎて、軽く目眩を感じた。


―――ピピッ


ポケットの中で携帯電話が鳴る。メールだ。いったい誰から‥‥‥。


「夢じゃなかったんだな」


差出人は街屋探偵事務所だった。"15時からよろしく"とだけ書かれたメールだったが、なぜか逆らえない感じがする。


「でも、行きたくねえな」


行かなくていいかな。ごろりと寝転がった。

その瞬間。ごうと風が吹いて、屋上の砂埃が巻き上がった。


不意打ちのそれに、両目に砂を入れてしまった俺は涙を流しながら、屋上をあとにしたのだった。