この空の下で風は唄う

「ねぇ風はさ」

しばらくの沈黙の後、洋平が口を開いた。
あたしは洋平の方を向いて、次の言葉を待った。

洋平は思い詰めたようにこちらを見つめた後、誤魔化すように笑った。

「や、何でもないんだ。そうだ、今年も、浴衣着て来てよ」

なんだか的外れなその提案を不思議に思いながら、あたしは首を傾げた。

「浴衣?」

「そう、空と色違いのやつ」

「洋平もそういうの興味あったんだ」

なんだか可笑しくて吹き出してしまった。
洋平は少し照れながら、

「そりゃあるさ。一応思春期の男子だからね」

「そういえば、クラスの女子が洋平はかっこいいって言ってたよ。優しそうだし大人だしって」

洋平は困ったように笑って、

「別に俺大人じゃないよ。かっこよくもないし」

「そう?大人だと思うよ。少なくともあの馬鹿よりは」

頭の悪そうな短髪を思い出して言った。

「いやいや、なにせ、俺にはわからないことだらけだよ」

「例えば?」

ちょうど別れ道になって、あたし達は立ち止まった。
洋平は、静かにこちらを見つめている。


「君が俺たち三人に何年も隠し続けている物は何か…とか、ね」