この空の下で風は唄う

玄関に座り込み、ボーっと外を見ていた。
雨の日の独特なアスファルトの匂いが、ここまで立ちこめている。

「ったく、いきなり降んなよな」

竜太くんが、私の隣に座った。
竜太くんは、少し不機嫌そうで、眉をしかめて、外を見つめる。

「私は雨、結構好きなの」

視界は外に向けたままで、呟いた。

「へぇ、なんで?」

「……なんでだろう。雰囲気が好きだし、それに……」

理由を探して、私は途中で言葉を切った。
そして、口に出すのをやめた。
誰にも知られなくていいの。
私と風だけの、大切な思い出。

「……内緒」

「なんだよそれ」

微笑みを向けたら、竜太くんは、クシャクシャと髪を撫でてくれた。
こういう時、竜太くんはとても優しい顔をする。

「止むかな、雨」

「どうだろうな」

もう少しだけ、このままいたいなんて、口が裂けても言えないけれど。