my existence sense-神が人を愛す時-









スッ。






「お嬢ちゃん、迷子かな?」



誰か客人の子だろうか?
バロンは女の子の身長に合わせるように身を屈めてニッコリと笑って話し掛ける。

そしてぶつかった反動か少し後ろによろけるような形になっていた女の子にそっと手を差し伸べる。







「申し訳ありません、考え事に夢中で前をしっかり見ていなくて。
大丈夫ですか?御怪我はありませんか?」



「...........」



返事は無い。
手を取ろうともしない。

人見知りなのだろうか?
知らない場所で迷子になって不安で怯えているのだろうか?
どっちにしてもこのまま放って置く訳にもいかない。







「お名前は何と言うのかな?」



「...........」



「お歳は幾つかな?」



「...........」



「お父さんとお母さんはどうしたのかな?はぐれてしまったのかな?」





女の子の緊張を和らげようと幾つか質問をしてみるが、やはり反応は無い。
女の子は後ろに崩れた体勢を静かに整えて、少し俯き加減でその場に立ち尽くす。


困ったな。
このように怯えている迷子の女の子を前にしてまさか放って置く訳にもいかない。
早朝から立て続けの仕事で些か疲れてはいるが仕方がない。

城中を捜し回ってでもいち早く親元に返してやる。
それが大人の義務と言うものである。









「安心して下さい?
僕と一緒にお父さんとお母さんを捜しに行きましょう?」



スッ。



「ほら.............」








ッ!
バチーンッ!



...........。






「え?」



一瞬何が起こったのかバロンには判らなかった。

女の子の手を取ろうと差し出した手。
その瞬間に迸ったのは手首がどうにかなってしまいそうな程の物凄い衝撃。

真っ白になる頭。
数秒の空白の後に戻る意識。
その意識と共に差し出したはずの手に走る尋常じゃない痛み。







「なっ.......こ、これは―――」



見れば真っ赤に腫れた自分の手。
男にしては白くきめ細かい手にくっきりと小さな赤い手形が残る。







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