一人が話し始めたことをきっかけに無駄に張り詰めていた空気が和らぎ口々に話をし始める。
話題は先に此処を後にした外套の人物のこと。
その人物も此処に居る者達と同じように今日の試験の受験者であり、つい先程まで共に試験を受けていた。
別にさして特別な者でもないはずだ。
「傭兵だって話だが、ノウェルなんて名聞いたことねぇ。
傭兵にしちゃ華奢すぎるし、あんな様相の奴は見たことねぇ。
第一あの腕で傭兵やってりゃすぐに名が通るはずだ」
ノウェル。
それはつい先程、試験で行われた最後の模擬試合のその決勝で勝利を上げた者の名。
そう。
何を隠そう今話題に上がる外套を纏ったあの人物その人である。
「ノウェル......確かに初めて聞く名だな」
「俺も結構長いこと傭兵ってのをやってるが、俺も聞いたことねぇな」
此処に集まる者は各地から集まっており面識は無い。
だがそれでもついこの前まで争いが蔓延っていた世―――何処の国にも正式に属さない傭兵であれど腕の立つ者であればその名は広まるものだ。
しかも此処に今集まる者はそれなりの実力を備えた者達。
今回集められた名目はある程度の実力を要するもの。
各国もそれは重々分かっている。
つまりこの試験を受けられるという時点でもう既にかなり戦いのエリートなのである。
その中でも先程見た限りあのノウェルという人物は此処に居る者の中でもずば抜けて腕が立つ。
見た目はこの中の誰よりも華奢で非力にも見えた。
顔を伺うことが出来なかったため定かではないが、歳だって恐らくはこの中の誰よりも若く見えた。
だがそれでもあのずば抜けた実力。戦いの業。
新参者には到底見えない。
それどころか幾十年も厳しい修行を重ねた熟練の剣士に見えた。
........。
であるのに、あのノウェルという者を知る者が誰一人としていない。
それはあまりに不自然で、皆があのノウェルという者の存在に首を傾げる。
「ま、まぁそのうち何者かは判るだろうよ?
あいつのあの実力なら恐らくこの試験にも通ってる。そうなりゃ同じ国の元で共に戦う仲間だ、嫌でも判る。
.......まぁ俺等が無事に受かっていればの話だがな、ハハッ....ハァア。
さぁて、俺等もそろそろ移動しようぜ?
合否発表に遅刻でもすりゃそれこそ終わりだからな」
「あぁ、そうしよう」
「そうだな」
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