「.......」
思い返す先程の会話。
キルファ。
彼の姿が脳裏に甦る。
キルファは一見穏やかに見え人の良さそうな笑みは頼りなさげにさえ見えることもある。
だが人望は厚く、この軍事大国を治めながらもその軍事力を無駄に行使せず争い事を好まないその姿勢は民からも支持されている。
だが彼には普段は内に隠れるとてつもない狂気がある。
普段の彼の裏には本人さえ気が付かない別の人格が―――。
"君達にやってもらいたいのはそう―――"
"神殺し"
時折顔を見せるのだ。
そう、今日のあの時のように。
神を殺すだなんて普通であるならば到底思い付きさえしない発想。計画。
無垢な笑みで真面目にそう言うキルファにバロンは思わずゾッと身を震わせた。
――――。
「.......。
ふぅ。余計なことを考えるのは止しましょう。
僕はこの国に忠誠を誓う身。
王の命令とあれば従うしかないんですから」
不安はあった。
だけれど拒むという選択肢は不思議と浮かばない。
ただ今彼が就く将軍という位は軍事大国であるこの国ではかなり高位であり生活に困ることもない。
国が統一される前は各地で繰り広げられる戦争に心休まる暇も無かったが、前王が人という種を纏め上げ国を統一そしてキルファが王となってからは平穏になった。
今のこの国にも王にも不満は無い。
本当のことを言えば命を全て捧げる程の忠誠心を持っている訳ではないが、この国のために王のために出来る限り尽力したいとは思っていた。
「ジーザス.....あの人は不安に思わないのでしょうか?
そりゃ一瞬は戸惑っていましたけど本当に一瞬でしたし、あの話を聞いてどうしてあんなにヘラヘラして居られるのか―――あの人の頭の中は一体どうなっているんでしょう?」
そしてバロンは続けて思い出されるもう一人の男に意識を向ける。
ジーザス。
長身でがたいが良くいつもヘラヘラしている。
職務怠慢気味だがかなり戦いでは腕は立つ女好きの適当な男。
彼への印象を言葉に並べてみればこんな感じになる。
自分と同じこの国の将軍で、歳は彼の方が上。
バロンが将軍職に就く前から彼は既にその地位であったため正確にはバロンの上司である。
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