my existence sense-神が人を愛す時-

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「..........それ以来、神々は再びこのような悲劇が起こることがないよう世界の各地に散り姿を隠しひっそりとこの世界を見守ることとした――――ですか。

何だか随分と可哀想な話ですね」






パタンッ。

二度目の世紀末から遥か幾千年。
すっかり平穏さが取り戻された世界の一角で紅茶を片手に一冊の本に目を向ける男。









「ふぅ......もうこんな時間ですか」



少し冷めかけてぬるくなった紅茶を啜り開いていた本を閉じて机の上へと置く。

ッ。
紅茶を飲み終え一息ついた男は綺麗な淡い金色の長髪をサラリと揺らし掛けていた椅子から立ち上がる。









「........。
神殺し、ですか」



彼以外誰も居ない自室で誰に言うでも無くバロンはただ呟いた。
その呟きは暫く虚空を漂い消える。








「果たして本当にそんなことが人の手で出来るのでしょうか.......」



立ったは良いが特に何をするわけでもないバロンは一人でぶつぶつと呟きながら部屋の中を右往左往する。

時刻はもうすっかり夜。
寝る前に少しだけと思った調べ物がどうにも一冊の本に読み耽り長引いてしまったらしい。








「五神。創世の女神。
それを信仰する民達。
今までこの世界には当たり前のように神が居た.......これから僕等がしようとしていることはそれこそこれまでの世界の根本を変えてしまう。

そんなことをした先には本当に平和など在るのでしょうか?
一歩間違えたらきっと.....三度目の世紀末が訪れてしまう―――そんな気がします」






ゾクリ。
そんなことを考えたら一瞬鋭い寒気に襲われた。


世紀末。
頭の中を過る言葉にふと机の上に置いた本に目をやる。

果たして此処に書かれていることは事実であるのか、それともただのお伽噺であるのか。
一応この国では正式な歴史を記した文献とされているがそれが果たして本当に出来事であるのか、今のこの世界で生きる人間では誰一人として判るものは居ない。
たがもし仮に事実であったとするならば、もうこの世界は既に二度の世紀末を迎えていることとなる。
そして想像する三度目の世紀末。
人は辛うじてその二度を乗り越えてきたが、三度目は.....あくまでもバロンの想像だが三度目の世紀末のその先にはもう人の未来は無いように思えた。


........。
人の未来は無い。
そんな世紀末は避けたい。

だがそれを起こそうとしているのは、人。人間。






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