断れないことはなかった。

むしろ、断った方がいい場面だったと思う。


けれど、私は、どうして素直に晃とふたりきりになってしまったのか。



「何? 私といたら『困る』んじゃないの?」


牽制するように言った。


昼休みの屋上に響く、グラウンドではしゃぐ生徒たちの声。

抜けるような冬晴れの中、振り向いた晃の顔は、悲しそうで。



「俺、美冬ともう無理かもしれなくて」

「……は?」

「最初はナツの代わりでもいいとか思ってたけど、どう頑張ってもダメそうだし。時間が経っても俺には美冬の心は動かせそうになくて」

「………」

「俺ももう限界だなぁ、とか? 俺らは別れるべきなのかなぁ、とか」

「………」

「色々思ってるうちに、ふと晴香のこと思い出して。俺は晴香と付き合うべきだったのかなぁ、なんて考え始めてさ」


どうしてそこで私の名前が出てきたのかわからない。

美冬とのことと、私とのことは、別問題なんじゃないの?



「俺、別に晴香のこと嫌いだなんて思ったことないし、むしろ普通に好きだし? だって俺ら、一緒に育った幼馴染だもん」

「………」

「そういう、空気みたいな存在でいられるっつーか、何も考えずに一緒にいられる相手の方がいいんじゃないかなぁ、って」


困ったような顔をしながらうだうだと言い続ける晃は、刹那、目を細め、



「なぁ、晴香。俺のこと慰めてよ」


すぐにはその言葉の意味を理解できなかった。


晃は泣きそうな顔をしていた。

私は困惑しながらも、足を後退させる。



「また昔みたいに戻ろうよ。俺と晴香はそれが一番自然だろ?」