「なぁ、花火しよっか」


私の言葉には答えず、ナツは自分の横に置いていた買い物袋をがさごそと漁った。


ナツはその一本を私に持たせ、ポケットから取り出したライターで火をつけてくれる。

赤い閃光が噴射した。



「あの日、観れなかったじゃん、花火。だからまぁ、代わりっていうにはショボすぎるけど」


ナツも自分で持った花火に火をつけた。


ふたつの花火の火花が散る。

煙が風に舞いながら私たちを包む。



「俺さぁ、学校辞めることにしたから」

「……え?」


私の手に持つ花火が、消えた。



「元々うちの親父、体弱くてさ。よく入院とかしてて。だから俺も高校行かずに働くつもりだったんだけど、それだけはダメだってオカンに言われて」

「………」

「でも、夏休みに入ってから、親父また倒れてさ。今回はやばいかもしれないらしくて、会社辞めなきゃいけなくなって」

「………」

「うち、社宅だから引っ越さなきゃいけないし、下にはまだ小6の妹いるし。オカンは看病しながらパートなんて無理だろ?」

「………」

「だからまぁ、俺の学費がなくなれば少しは楽になるだろうし、俺が働けばもっと楽になるだろうし?」


衝撃が大きすぎて、頭が真っ白になった。

それってつまり、ナツが、いなくなるってこと?



「……何、言って……」

「俺、高校楽しかったよ。晴香と会えたし。友達もできたし」

「……待ってよ、ナツ……」


いつもの冗談だと思いたかった。

でも、ナツの真面目な顔が、そう思わせてはくれなくて。



「最後の思い出にと思って花火に誘ったけど、結果としてコクっちゃってさ。まぁ、振られるのはわかってたけど、言えてよかったもん。もう思い残すこともないっつーか?」