君の声を聞きたくて

あたしは引き返した。
その姿を見てると頭が痛くなるから。
呼吸しにくくなるから。
あたしは小走りで、来た道をもどっていく。
後ろであいつが振り返ってあたしの名前をつぶやいてる事も知らずに。


「小柳ー、お前田中みつかんなかったんか?」


休み時間が終わって、授業が始まる少し前。
担任があたしに声をかけた。


『あぁーすぃあせーん。』


適当に返事をすると、担任はいつものようにわざとらしくため息をついた。
さっきの事を思い出すとなぜか田中の方を見れなくて、
あたしは静かに机の上にうつぶせた。


「なに?お前、さっき担任になんかいわれたんか?」


田中はいつもどおりあたしに話しかける。
それがなんだか嫌で仕方がない。
あたしはうつぶせのまま口を開いた。


「んー…?まぁーねー…。」


今は田中と話をしたくなかった。
柿沼さんの事好きなら柿沼さんと話せよ!!!
この、田馬鹿!!
あたしは授業もまったく耳に入らなかった。
なにもかも、どうにでもなってしまえなんて思ってた。
帰り際、担任がこの話をするまでは。