「あ、小柳!」


担任の声が後ろからする。
体育館へ向かおうとした足を止めて後ろへ戻った。


『何ですか?』


「田中、体育館おったら呼んできてくれへんかな?」


『あぁー、はい。』


体育館までいく必要もなかった。
階段を駆け上がって廊下へ出た、
その時田中の姿が目に入った。



『たn―――』



3組の前。
ドアについている小さな窓から教室の中を真剣な、けどどこか寂しそうな――
この前みたいな目をした田中がいた。

挙げ掛けた手を止める。

呼びかけた名前を途中でとめる。

小走りだった足をとめる。

とめざるをえなかった。
田中はあたしに気付かない。
あたしは心の中でつぶやいた。
きっと3組の中に、この教室の中に、柿沼さんがいるんだ…と。

いつも、こうしてたんだね。

あたしのみてないところで田中は…。

田中は…。