田中が柿沼さんと付き合ってると聞いてから3日がたった。
田中は相変わらず「小柳ー、宿題したー?」が朝の挨拶だし、
柿沼さんの事が好きなようには微塵も見えないし、
本当に付き合ってるのかな?なんて思うほど。
………思うほどだった。今日まで、この日まで。
ううん、ちがう。
あたしが気付かなかっただけ。この日まで気付かなかっただけ。


【梨華って田中の事好き?】


音楽の時間、後ろの席の明美から回ってきた手紙にかわいらしい文字で
書いてあった言葉。
あたしが?田中?……ない。ありえない。田中彼女いるし。


【ないってー!田中、彼女いるじゃん!ないよ、絶】


絶対の【対】を書くところで一回手を止めた。
本当に?絶対?
自分に問いかける。
うつむいていた顔を上に挙げ、田中の方へ向ける。


「田中と柿沼って付き合ってるんだって!」


この言葉を思い出して、あたしは手紙に一文字つけたした。
『ないよ、絶対。』
自分に言い聞かせながら。
小さく折って、あたしは後ろへ手を回した。
カサカサと手紙を開ける音がする。
絶対ないよ、あたしが田中を好きなんて。