「おい、小柳ー宿題したー?」
教室に入ってくるなり、ぶっきらぼうな声であたしの名前を呼ぶあいつ。
その声を聞いて、あたしは今日もわざとらしくため息を漏らす。
チャイムがなりそうなギリギリの時間に来るあいつ。
「宿題した?」があいつの中では「おはよう」なんだ。
「おい、きーてんのかっ?」
そう言って、手に持っていた鞄を乱暴に自分の席に置いた。
そんなあいつを隣の席からにらむあたし。
今日もあたしは口を尖らせながら、不満気にあいつをにらんだ。
けど、心のどこかで「もう、やっときたよぉ。」なんて思ってる自分がいる。
「ちょっ、毎朝にーらむなーってーっ!!」
苦笑しながらいう隣の席のあいつこと田中雄一。
田中の席に座るあたしは小柳梨華。
毎朝、宿題をせがむ田中にしょうがなく宿題を見せてしまうのは
田中の笑った顔を見るとほッとするから。
『はい、どーぞ。今日、英語の小テストあるよ?』
「まじか!?やっべ、勉強してねー!!!」
『あはは、ノートとらないからだよ。』
「小柳、貸せ。」
『嫌。』
田中とのやりとりにまわりは小さく笑う。
そんな朝のひと時が大好きだ。
鶏も鳴かない、
小鳥のさえずりも聞えないし、
そんなおとぎ話のような朝じゃないけど。
チャイムがなるまでのこの5分。
たった5分。けど、あたしにとっては貴重な5分なんだ。
あたしは、引き出しの中から英語のノートを出して田中に渡した。
「さんきゅっ。」彼はそういって、眼鏡をかけて机に座った。
今日も一日が始まる。
田中の隣の席であることを嬉しく思った。
