「カナメ……?」
彼の名を呼ぶのはハル。
自らの胸を貫き血を流すカナメに歩み寄ろうとするが、何故か身体が動かない。
「礼を言うよハル。この世から災厄を祓ってくれてありがとう。そして感謝するよ、俺の願いを叶えてくれて」
ハルに背を向けたままのカナメは肩越しに振り返る。
辛い筈なのに笑顔を見せる彼はハルの疑問に答えるように言葉を紡ぐ。
「俺は柴架の観測者。彼女の行動をこの目で見続けなければならない者。彼女の行動に手を出す事も口を出す事も許されないそんな存在の俺は、そう簡単には死ねない身体、柴架が存在する以上、生き続けなければならない運命だった」
胸に空く風穴からは未だ多量の血が溢れ出る。
咳き込むカナメはペッと血を吐き捨てた。
「だがその運命からも解き放たれた。柴架が死んだ以上、観測者である俺の役目も全て終わったと言う訳だ」
フッ吹いた静かな風。
穏やかなその風は視線を交わす2人の髪を悪戯に揺らす。

