「…う、うぅん。」

おしんはうっすらと目を開けた。



「おや、大丈夫ですかい?已之吉、目を覚ましたよ。」


「本当かい!」



寝間着姿の一人の青年が襖を開け、嬉しそうな顔をして入ってきた。


「わたしは…」



「びっくりしましたよ。いきなり倒れたから…。
お医者様は疲労だと言っていました。
ゆっくり休んで養生して行ってください。あの日、お世話になったご恩、ようやく返せる時が来ましたよ。あ、トミさんお粥できました。もし良かったら食べて下さい。」


「あぁ、そうかぃ。あ、今粥持ってきますからね、おしんさんとやら。」


トミはどっこいしょと腰をあげた。


「あ、ありがとうございます。

………そうか…。私。」
彼女は額に手をあてた。



「いや、また今回もあなたに救われましたね。今回は化け物に襲われて。いや、滅相もない。」
已之吉は照れ笑いをした。

「いや、いいんですよ。あれは私の仕事ですから…。」
「仕事?…といいますと?」「わたし、霊媒師なんですよ。」

霊媒師。

それは霊魂を浄化させ、そして昇天させる職業である。




最近ではぼろもうけのできる人気のある職業………
そういわれていた。





開国した明治維新以降、政府は未だ全滅しきれていない魑魅魍魎の一斉排除に乗り出した。


…外部に窓口が放たれた事で彼らの排除が済んでいない整備の立ち後れた日本の醜態を全世界に晒すことになる。




…要は近代化の波に彼らの存在は邪魔だったのである。



そして霊媒師の一人である彼女にも国家による依頼が一気になだれこみ、そして全国を飛び回るようになった。




このため家には既に何ヵ月も帰っておらず、藪にまみれている可能性が高いという。





「………体調が回復したらおいとましますね。」






そんなおしんの言付けに已之吉は真剣な顔をして腕を組んで考えこんでいた。


「已之吉さん…あの、どうかなさいましたか?」



「おしんさん。私はあなたが倒れるのを…見てしまった。」


「え?あ、はぁ…。」


「もし、私があの場にいなかったら、あなたはあのまま意識を失ってあそこで倒れたままだった…。」
「…そうですね。助けて頂き本当にありがとうございます。」


「いや、それはいい。そんなことよりここらは熊もでるし、山犬、鷹などもいる…。
何より、化け物に襲われる危険性自体ある。
あなたがだれしらず行き倒れになったら、あなたの命自体あやうくなる。違いますか?」
「…え?えぇ、そうですね」


「どうですか?少し考えてみては。村で働く方が今の激務に比べると数段と楽だし、何より安全だ。もしよければ一緒に農業を手伝っていただけませんか?」


「それはどうゆう…」

「私はあなたがそんな危険な仕事をなさっているのが耐えられない。ただそれだけです。」

已之吉は真剣な眼差しでおしんを見つめた。
純粋で真っ直ぐな目。



「已之吉さん…」

彼女は已之吉の素直な心に胸をうたれた。不思議な気分だった。
何か暖かいモノに包まれるような…。


そしておしんは何より嬉しかった。



私の事を心の底から心配してくれる人が…今ここにいる…。