「……そんなことがあったのですか。」
八雲は話を聞き終え、溜め息をついた。
辺りはすっかり夕暮れとなり、真っ赤に空を…そして街並みを染めていた。
女は全てを話し終えると僅かながらに肩を震わせていた。
…沈黙の時。
庭の木が風に揺られてささやき、そして風鈴が涼しげで乾いた音をたてた…。
「…お嬢さん苦しいでしょう。袖頭巾、とったらいかがですか?」
女は頷き、顔を隠すその布地をまくりとった。
八雲は驚いた。
…若い。
傍目から見るとまだ二十歳にも満たない少女だった。
そして、彼女の青い瞳からは一筋の涙が…。
「…あたしはとんでもないことをしてしまいました。…自ずを戒める為、全国の寺社を巡り自分なりの答えを見つけようと思っています。
そして八雲さんの書かれたお話を記録とし、我が身の業を、…罪行を一生かけて詫びて行くつもりです。」
「………。」
八雲はやるせなくなった。
「それで、あなた、いつまでこんなことなさるおつもりなのですか?」
「…わかりません。
こんなことしたところで一片の償いにもならぬことはあたし自身重々承知しています。
でも何かやらないと…
あたし自身が
何かやらないと…
気が治まらないのです。」
少女はうつむいた。
「…そうですか。」
八雲は少女を見つめた。
「…わかりました。では、内容・人名を変更致しますが、あなたの話を元にして「雪女」という題の怪談話、書かせていただきます。」
「はい…。よろしくお願いいたします。」
少女は消え入るような声で呟き、深々と頭を下げた。