「…蛍きれいだね。」
神社本堂の脇から湧き続ける湧水。
その湧水は小さな池を生成し、そこの周りを蛍は舞っていた。

おきぬたちは傍らにあるベンチに座って蛍を見ていた。
「ここは昔から、蛍の名所らしくてね…
数は少なくなっちゃったみたいなんだけどね。私、久々に蛍みたよ。東京近辺でこんなにきれいに見れるところはここだけなんだってさ。
そして蛍を見ながら飲むビールはカーッ!うまいね!」


「あんた親父みたいだよ」
おきぬは笑った。

祭りは終わり、静けさが支配する中、提灯の灯りがゆらりと周囲を暗く照らしていた。

その時、参道に5人組の家族が歩いて行くのが見えた。手を繋ぎ仲の良い家族に見える。いや、実際仲が良いのだろう。
それは見掛けではない。雰囲気がそれを確定させた…。
人影がまだらな中、その家族はゆっくりと歩いていく。


「おねえ…。」

おきぬはつぶやいた。



そして…鳥居の下で彼らは振り向いた。



已之吉、トミはおきぬに会釈した。
二人の子達はけん玉を持って夢中で遊んでいる。

おしんは微笑み、小さく手をふった…。


(おきぬ。頑張って生きていってね。私達はあっちで仲良くやってるから、だから安心して…。おきぬ…
ありがとう。さようなら…)


おしんの声がおきぬの心に響いた。


5人は光に包まれていく。

「さようなら、お姉…」

おきぬは呟いた…。








「…綺麗。」


椿が恍惚な顔をしておきぬを見つめていた。


「え?」


「あ、いや、なんかあんたすごい綺麗だったよ…。恋する女の子みたいな…。いや、女の私も惚れるような…。
ふふ…。どうしたのかな?なんか良いことでもあったのかしら?」

椿が笑った。


「うん。まあね…。」



おきぬは微笑んだ。

「実は…つばきに話しておきたいことがあるんだ…。」

「話しておきたいこと?」



「うん…」


そしておきぬはゆっくりと語り始めた。
決して明かそうとしなかった過去の…それまでのおきぬが生きてきた歩みを…。




蛍は二人を包みこむようにいつまでも優しく舞い続けていた…。