「え…。」
おきぬは顔を上げた。
そこは全く違う空間が広がっていた。
広い草原。
遠くに見える山並み。
ここ、どこかで…。
「おきぬ…」
…柔らかく、懐かしい声が背後より聞こえた。
おきぬは振り向いた。
そこには一人の女が立っていた。
おしんである。
「お、お姉…」
「おきぬ…。久しぶり…。元気にしてた?」
おしんは微笑んだ。
「お姉…。」
「おきぬ。…どうしたの。そんな悲しい顔したらダメだよ。どうしたのよ。あんたらしくない。」
「ごめんね。お姉。
お姉…。ごめん。ごめんなさい!」
おきぬの目から堰を切ったように涙がこぼれだした。
「おきぬ…。私、あんたの事、ずっと見てたよ…。」
おしんはゆっくりとおきぬに近づいていく…。
「あんた、ずっとひきずって生きてきたんだね…。
辛かったでしょう。
…苦しかったよね。
ごめんね。おきぬ。
ごめんなさい。
あんたにあんな事させてしまって…。
私、あんたにどうお詫びしていいかわからない…」
「…ひっく。ううぅ…
お、おねえのおねえのし、しあわ、しあわせをあた、あたしがあたしがめちゃくちゃにしちゃ、しちゃった。うう…ううぅ」
おしんはおきぬを抱いた。
「おきぬ…。やっと会えた…。良かった。
あの時以来だね。
…私、ずっと、あんたに会いたかったのよ。」
「お、おねぇ。もぅあたし、あたし、どうしたらいいかもぅもぅ……」
「おきぬお姉ちゃん。どうして泣いてるの?」
二人の子供が裾をひいた。
好子と健太郎だった。
「よ、よしこちゃん。け、けんたろうくん…。
あたし、あたしはあなたたちを助けられなかった…。ごめん。本当にごめん。ごめん…ごめん……」
おきぬはうずくまって嗚咽する…。
「おきぬお姉ちゃん、ダメだよ。笑ってよ。泣いちゃダメだよぉ」
好子はおきぬの頭をなでた。
「おきぬお姉ちゃん。どっかいたいの?ぼくが痛いの痛いのとんでけー。してあげるー。」
「…あたしは…あた、あたしは…あたしは…
あたしはあなたたちの幸せを…幸せを壊してしま…」
「それは違うよ…。おきぬちゃん。」
「…え?」
おきぬは目を真っ赤に腫らしながらも顔を上げた。
好子と健太郎は声の主の方へ駆けていく…。
「おとおちゃんお帰りなさい!」
「おとおちゃん!久しぶりにおきぬお姉ちゃんが遊びにきてくれたんだよー!」
声の主、それは…已之吉だった。
駆け寄ってきた二人の子の頭を已之吉は優しく撫でた。
「いの…きちさん…。」
已之吉はおきぬを見つめ、何かを思い出すように語りかけた…。
「おきぬちゃん…。
初めて会った時に言ったけど、覚えているかい?
僕にとって、おしんはかけがえのない、必要な女性なんだ…。
そしてまた…こうやっておしんと再開できた…。
いやあ、嬉しかったよ。
あの時は絶望の淵にいたからね…。」
已之吉は言葉を止め目をほそめた。
「そして…」
そう言うと已之吉は視線を天にあおいだ…。
「そして…、また、僕たちは家族としてお互いに生活を始めている…。
新しい一歩としてね…。
だから…」
已之吉はおしんに目を向けた。
おしんは頷いた。
「おきぬ…。」
おしんはおきぬの頬を優しく撫でた…。
「だからおきぬ…
もう泣かないで…。
……ね?
私たち…今、
今…とっても幸せなんだから……。」


