「…おきぬ。本当に大丈夫?」





駅を抜けタクシーに乗り込むと椿が心配そうに声をかける。


「どこか具合悪いの?」
「大丈夫。ごめんね。つばき。」

おきぬは前を向いたまま、心ここにあらずという雰囲気だった……。


「本当に?本当に大丈夫なの?」


「大丈夫。ごめんね。つばき。」

「ダメだよ。少し休んだ方が」

「大丈夫。ごめんね。つばき。」

彼女はそれを繰り返した。
まるで、覚えたての言葉を繰り返すオウムのように…。


椿はあきらめたような表情をした。


「運転手さん、赤沢の大社までお願いします」


椿は運転手に行き先を告げた。


赤沢の大社(おおやしろ)。そこはかつておきぬとおしんが蛍を見ながら昔を語り合った場所だ。



おきぬは無表情のまま、それは感情をもたない人形のようだった…。