彼女が妊婦だった頃、スーパーの階段から滑り落ち
頭・腹を強打、意識不明のままこときれる寸前だった。





だが、その時おきぬによって彼女は命を救われた…。


おきぬの目を見据え彼女はこんな言葉をのこした。


「もし、あの時あなたが助けてくれなかったら、この子は日の目を見ることはありませんでした。
本当にありがとうございます。
この子は私の大切な宝物です。私もこの子もおきぬさんに救われました…。これからこの子と共に、そして家族を大切にして、与えられた生を必ず楽しく生きていきます。
おきぬさん、あなたには感謝しきれない言葉でいっぱいです。

だから、あなたも楽しく生きていってください…。
それが、私たちへの最大の返答になるのですから。」






…そのとき、おきぬの頭にあることがよぎった。


大切だった家族の顔が走馬灯のように駆け巡り、そして消えていく…。



もう…もう…許してくれてもいいよね。






あたしのこと、許してくれるよね…。









それからである。



昔のように明るく…ドジだがどこか憎めない、そんな本来の彼女の姿に戻っていったのは…。


ちなみにおきぬの履歴管理書(人間でいう住民票)には「経歴不明」という、異様な一文のみで完結されている。



おきぬにとって姉と過ごした楽しい日々は楽しい思い出ではなく…辛く禍々しい過去となって記憶に留まった。



そしておきぬはその過去自体を完全に封印した…。



そう…彼女の口から家族・また、過去の事が語られる事はなく、また、それが明らかになる時は絶対に来なかったのである………。