ガバッ!



おきぬは飛び起きた。


汗で背中がグッチョリと湿っていた。

(な、なによ…今のは、今のは一体…)





あの日から…どれぐらい経っただろうか?


一日が永遠に続くように思えた…。


…もう二度と日が暮れることは
…そして夜は明けることはないのではないか。




床につくとおしんが夢の中に現れた…。

そして夢の中のおしんは怨めしげにおきぬを憎悪の目付きで睨み付けていた…。



…楽しかったあの頃…それがこんな形になってしまうなんて…。



おしんの言葉がいつまでも心に残っていた。


「あんたも谷口家の大切な家族の一員だよ」



最愛の家族の一人をあたしが、あたしが殺した…。





あたしが…殺したんだ。


とんでもないことをあたしはしてしまったんだ…。

もう二度とどんなに願っても…もう、もう、絶対に会うことはできないんだ…。

お姉…会いたいよ。

寂しい…。寂しいよ…。





おきぬは山辺の妖魔たちの前では気丈に振る舞っていたが…黒く暗い影が彼女に付きまとっていた…。



決して…絶対に取れることのない…
黒く…暗い影。





…おきぬは自問していた。


果たしてあれが最良の方法だったのだろうか…。


おしんを生かす方法はあったのではないか…。


せめて、あの子たちだけでも助けられたのではないか…。







そして結局、その答えを見い出すことはできなかった…。


あたしが、あたしがしっかりしていれば…あんな事には…。

…あんな事にはならなかった。




どうして?
あたしがだらしないから。
いつまでも続くと思っていた「幸せ」にすがりついていたから…
それが当たり前だと思っていたから




ダメだ、もうあたし…

本当にダメだ…。



自責の念が彼女の心に重く、重くのしかかった。





おきぬのそれまでの明るく人懐こい性格は少しずつ影を潜めていく。
…目の輝きは失せ、死んだ魚のように表情がなくなっていった。


そしてある日、おきぬは山辺の住人達に突然別れを告げ、姿を消した。





そして二度とそこに帰ってくることはなかった。



…それは明治四十二年、雪がちらつくある寒い冬の日のことだった。