その頃…。
ここは四国の愛媛県詫間市にある高瀬寺…
「ぶわーっくしょいいい!」
大坊はでかいクシャミをした。
「お師匠さま、風邪でもひかれましたか?」
彼は弟子と共に寺の場内の掃除をしていた…。
「さ、さぁ。うむ。ぼくのように普段のおこないが良いとやはり…。
何しろ、よい噂を影でされるからね。クシャミの回数も増えるから、まぁ君たちも気を付けるのだよ。はっはっはっ。」
高瀬大坊は意味不明な事を言った。
弟子たちは「はい。」といい笑いながらもため息をついた。
おきぬたちを乗せた電車は豊田を発車し、多摩川の鉄橋を渡っていた。
『ご乗車ありがとうございました。まもなく駒王子、駒王子に到着いたします。横浜線・駒崎線ご利用のお客様はお乗り換えです。次の…』
「あ、おきぬそろそろ着くよ。」
「え?」
駒王子…。
ま、まさか…。
おきぬは外を見る。
ビルや宅地がうめつくし、かつての面影はほぼ消え失せたものの、丘陵の形状、遠くに見える山容を見るとそこはまぎれもなくおきぬが生まれ育った場所…
そのものと一致した。
……まさか、まさか…
ここだったなんて…。
封印していた忌々しい過去が一気に蘇る。
あたしは昔、この場所で実の姉をこの手で殺めた…。
大好きだったお姉を、大好きだったお姉を…。
このあたしが殺した…。
あたしが…
殺したんだ…。
重く黒い鉛のようなどす黒い霧が突如おきぬの脳裏を支配した。
「…………。」
おきぬは黙り込んだ。
椿が心配そうにおきぬの顔を覗き込む。
「おきぬ…どうしたの?顔色悪いよ。」
「…え、あ、大丈夫。何でもない。」
おきぬは無理に笑顔を作った…。
もう二度と来ることはない…そう思っていたのに。
広い構内を渡り電車は駅のホームに滑り込んだ…。