「遅いなぁ。おきぬの奴…。」
椿は待ちくたびれた。

名古屋を出た…おきぬからそう連絡があり新幹線の時刻を調べ、あらかたの到着する時間を見当つけて東京駅で待っているが

…まだ着かない。




椿は腕時計を見た。


すでに4時を回ろうとしていた。


東京駅で既に一時間半近く待ちぼうけを食らっている。
改札口の場所は念を押して教え駅員に案内してもらうよう伝えた。
同時に東京行きの新幹線に乗車したことも確認した。


…なのに何でこんなに遅いのか。


溜め息をついたその時、



「やっほー!」


そんな声が聞こえ、改札口を見た。


おきぬが手を振りながら走ってきた。


「つばきー!うわぁ、久々だね!」


おきぬが笑顔で椿の手をとりブンブンふった。

椿は一瞬笑顔になるがすぐ眉をひそめ、
「遅い!あんた何やってたのよ。…ったく行くよ。
早く行かないと祭り始まっちゃう。」


椿はおきぬの手をとり走り出した。


「ほぇー!な、なになになに!」


おきぬは訳のわからぬまま、人ごみでごった返すコンコースを引きずられていく。





やたらに長いエスカレーターをかけ上がり二人は中央線のオレンジ色の電車に飛び乗った。




「はあはあはあ、な、なんなのよ!いきなり走り出してさぁ。」
「遅すぎる!あんたどこで油売ってたの!」


「へっ?新幹線で普通に来たよ。」

おきぬは困惑した顔つきになった。



「意味分かんない。だったら二時間でここまで来るはずなのに…。」

「三時間以上かかったんだけど。。」
その時電車は東京駅滑るように発車した。


「あんた…まさか「こだま」で来たんじゃ…」
「それで来たよ。空いてたし…」


やっぱり…椿はおきぬを見つめた。


「ダメよ。「のぞみ」ってやつに乗らなきゃ…こだまじゃ遅いのよ。…だったら時間かかるわ…。

…まっ、いいけどさ。
でも、ふふっ。おきぬらしい…。」


椿は一人笑う。



「そうなの?そんなん知らなかったわ…。「のぞみ」って奴バカみたいに混んでたから…乗るのやめちゃったんだ。ゴメンね…。」
おきぬは手を合わせた。



「まぁ色々あるから解りづらいよね…。

それより。
ようこそ!東京へ!よく来てくれたね!ありがとう!」


椿は笑顔になり、おきぬを祝福した。


「ありがとう。えへへ…。会うのどれぐらいぶりだろう。つばきがこっち来て以来か。
六年ぶりぐらいだね。最近どうなの?だんなさんとはうまくやってる?」

椿は「もちろん」と言い嬉しそうに笑った。


彼女は人間の男性と結婚。その後、東京に引っ越していった。
子供も授かり、幸せに暮らしている。
子供は一姫二太郎。
最高の相性で子供は五歳・四歳の可愛い盛りだった。

それからが彼女のマシンガントークが始まる。

旦那の自慢、子供の自慢…

姑ともそれなりにうまくやってるようだ。



電車は新宿を過ぎ中野に到着。三鷹・国分寺を発車した辺りから混んでいた車内がやや空いてきた。

ようやく座れるようになり、二人は座席に腰を下ろす…。


「こっちは人すごいねー。大変じゃない?色々と…」
おきぬが椿に言う。


「慣れよ慣れ。意外にね、慣れるとこっちも住みやすいものよ。」



椿は笑った。


「そんなもんかなぁ。
……………
………
な、なによ…」
椿はおきぬを凝視している。
「そんなことよりおきぬさん。あんたこそ結婚生活楽しんでるの?聞いたわよ。結婚したって。」


「えっ?へへ、まあね~。」
おきぬはにしゃーっと笑う。