…あくる日。
彼は友人の与作と酒を酌み交わしていた。
最初は世間話で盛り上がっていたが、やがて茂七の話題となった。
「茂七さんは残念だったが、本当良かったよな。お前だけでも助かって。そういやお前、ここに帰ってくるまでの間…いままでどうしていたんだ?」
「ある女性に助けられたんだ。そこで世話になってね。…彼女は命の恩人だよ。」
「そうか…。ならばいつかお礼に行かねばな。」
「あぁ。必ず礼はするさ。」
与作は頷くと酌の手を止めた。
「……どうした?」
与作は腕を組むと首を捻った。
「でもよお、あんな吹雪の夜に女一人で出歩くものか?おかしくねえか?」
与作はボソリと呟いた。
「…え?あ、ああ、それもそうだな。」
「へっ、助けた女ってのはまさか雪女郎だったりしてな。」
与作は楽しげに笑った。
雪女郎…。
それは伝説に伝わる化け物だった。
雪の降る夜に現れ人の生気を吸う。
そして、それにあったものは必ず殺される。
「…まさか、雪女郎だったら俺は今ここにいないさ」
已之吉は猪口をクイッと運んだ。
「そうだよな。しかしお前だけでも本当に助かって良かった…。」
そう笑うと与作は已之吉のお猪口に酒をついだ…。


