おきぬはムスッとした顔をして車に乗り込んだ。


「お疲れ様です。」
事務員の葛西が声をかけた。


「なによー。迎えに来なくていいって言ったじゃん。」

おきぬは窓をあけ縁に肘を当て頬杖をつき、下目使いで葛西を見る。

「そうは言っても、この前も祭りの会場にたどり着けなかったじゃないですか。ちゃんと道筋書いた地図渡したのに…全然違う場所にいたんだから。帰ってこれなかったらどうすんですか?」
車を走らせながら葛西はおきぬを見る。


「なに?それってあたしが方向音痴って言いたいわけー!」
「はい。そうです。」


彼は笑顔でこたえた。

(少しは包んでいいなさいよ(汗)
そう思いつつおきぬは反論した。


「でも今回は駅から一本道だし間違えないよ。」

「いや、念のため、念のため、ね…」

「全くもう…」
おきぬは苦笑した。

おきぬは「全国ゆきんこ協会岐阜支部」に所属している。

「ゆきんこ協会」


それは全国に散在する雪女全てが所属する。
その協会の業務としては、協会員への仕事の派遣・斡旋、各行政サービスの手続き中継・代行、妖魔族間の親睦交流イベントの遂行などを実施する他、独自の季節限定業務として各地で行われる祭礼、イベント事に出店を出し、また冬季はスキー場で雪を降らせたり……。
つまるところ、雪女族の行政サービス機関的な役割をこの協会がはたしている。




勿論、中には社会にでて普通に働く雪女もいる。
だが定職についていない者は基本的に協会の仕事を請け負いそれらの依頼を遂行していた。


「あ、そうだ。東京支部長から連絡ありましたよ。
至急連絡ほしいって…。
集計俺がやっときますから、連絡してください。」

「え、そうなの?東京支部からか…。なんだろう。」
おきぬは流れる窓の景色を見ながらつぶやいた。